報道されるものが必ずしも確かではない

ジャーナリズムに関心を持ちはじめたきっかけは、大学時代に起きた「桶川ストーカー殺人事件」の報道でした。

『黒い海 船は突然、深海へ消えた』(著:伊澤理江/講談社)

被害者である女子大生の持ち物の派手さなどが第一報で報じられたことで、殺害された被害者側が世間から叩かれた。でも、後に警察がストーカー被害を相談されていたのに動いていなかった事実が発覚します。

その時、強い違和感を覚えるとともに、報道されるものが必ずしも確かではなく、報道と真実にはギャップがあるのだと感じました。

第58寿和丸の件も、調べれば調べるほど不可解なことばかりで。ただ、事故自体の存在が残念ながらほとんど知られておらず、著者である私自身も無名なので、大きな版元で出さなければ事実を広く伝えることができないと思いました。それで講談社の編集部に本の企画書を提出したんです。

正直言うと、最初はかなり渋い反応でした。そこで企画書を練り直して、事故原因をめぐる謎の解明だけではないという企画の意義を丁寧に伝え、説得を重ねました。