時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは山形県の70代の方からのお便り。ある日、ラジオで紹介されたエピソードを聞いていたところ――。
ラジオネーム「鈍感老人」
FM放送でクラシック音楽を聴くのが最近の楽しみ。好きな番組が終わると、いつもはラジオのスイッチを切るが、その日は何となく次のポピュラー音楽の番組を聴いてみた。
番組では案内役の女性歌手が、ラジオネーム「鈍感老人」さんからのリクエスト曲と、それにちなむエピソードを読み上げていた。どうやら私と同世代らしい。
「働きながら夜間の大学に通っていた頃、友人H君の音頭で行くハイキングに必ず参加する女子学生がいた。H君に気があるのだと思っていた私は卒業時に彼に話すと、『勘が鈍いな。彼女は君に会いたがっているのに……』と。目の覚める思いだった。しかし彼女は、卒業と同時に北海道の実家に戻ってしまった」
そこまで聞いて、私は確信した。夜学、H君、ハイキング、北海道の実家……。「彼女」とは私のことに違いない。「鈍感老人」は同じ専攻の彼だ。東北の出身で、都内の官庁で忙しく働きながら、夜学での勉強も熱心な、芯の強い人だった。
放送が終わっても、回想にふけってしまう。私も大学で勉強したさに、都内で働きながらの通学だった。休日のハイキングは、何よりの楽しみ。私としても、鈍感さんが欠かさず参加するのは、もしかしてとの思いもあった。が、特に進展はなく、彼の「鈍感」さを歯がゆく思いつつ、実家に戻ることに。
そういえば夫はどこか彼を連想させる。知らず知らず彼の身代わりを求めていたのかもしれない。