「私ら、全国津々浦々の神社の縁日を知ってましてね……。そこに、綿飴だの金魚すくいだのお面だのの店を出すわけです」
「出店があるだけで、華やかな気分になったもんです。そこだけ明るくて、わくわくしましたね」
阿岐本の言葉に、多嘉原会長は笑みを浮かべる。
「祭ってのは、そういうもんです。遠くから太鼓やお囃子(はやし)が聞こえたら、たまらずに外に飛び出したもんです」
「神輿(みこし)がやってくるのを、今か今かと待っていましたね」
「祭ってのはいいもんです。私は根っから祭が好きでしてね」
「私もですよ」
永神が言う。
「その祭から、追い出されるってわけですよ」
どういうことだ……。日村は次の言葉を待った。
多嘉原会長が言った。
「どうもね、暴対法や排除条例のせいで、私らが祭に関わっちゃいけねえらしいです」
阿岐本が大きく息を吐いた。
「私らの稼業はずいぶんと制限を受けてますが、テキヤさんまで締め出されるとは……」
多嘉原会長がそれにこたえる。
「ずいぶん前(めえ)からそういう話はあったんです。町内会で出店をやるから、遠慮してくれっていう……。それを、神社の神主さんが私らのために頑張ってくれまして、去年まではなんとかやれたんですが……。ま、時代の波ってやつでしょうか」
「暴対法と排除条例にはかないませんなあ」
「まあ、私らも偉そうなことは言えません。切った張ったと無縁じゃありませんので、暴力団と言われりゃ、暴力団ですから」
「しかし、昔から神農さんは祭にはつきものだったじゃないですか」
「詐欺だと言われてもしょうがないようなこともやっておりました。消えるインクだのハブの軟膏(なんこう)だの、インチキな商品で子供たちの小遣い銭を巻き上げたり、安いバナナを高値で売ったり……」
「それって、香具師(やし)の話芸を楽しむもんだと私は思ってます。その芸に金を払うんですよ」
「そういうおおらかな世の中じゃなくなったみてえです。法律ってのは非情ですね」
阿岐本は永神を見て言った。
「それで、俺にどうしろって言うんだい。露天を出せるように交渉しろってことか?」
「いや、今回ばかりはどうしようもないと思う。たださ、アニキに話を聞いてもらいたかったんだ」
阿岐本は再び、溜め息をついた。
「話はたしかに聞かせてもらった」
多嘉原会長が言う。
「一家を畳むことも考えなければならないと思います。テキヤはもう生きていけない世の中になっちまいました」
阿岐本が言った。
「おい、誠二」
「はい」