義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
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永神が車を停めたのは、目黒区内の住宅街だった。細い路地がくねくねと続いたその先に、こんもりと緑の木々が見えた。杜(もり)のようだ。そこが神社なのだ。
永神が言った。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
車が走り去り、日村は徒歩で神社に向かった。参道は短く、その両脇にすぐ家屋が迫っている。
古い木製の鳥居があった。鳥居も拝殿も小さい。それでも木立は立派で神々しさを感じる。
駒吉(こまよし)神社というらしい。
日村は鳥居の前で一礼し、参道の端を歩くようにして鳥居をくぐった。中央は神様の通り道だ。
ヤクザは神道と近しい。だから日村にもそれくらいの心得はある。
拝殿に行き、賽銭(さいせん)を入れて二礼二拍手一礼。振り向くと、袴(はかま)姿の神職がいた。
「お参りくださり、ありがとうございます」
お約束のように、竹箒(たけぼうき)を持っている。