義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
6
永神が薄笑いを浮かべている。これは愛想笑いだ。緊張しているときに、彼はこの表情を見せる。それを日村は知っていた。
「何だい、アニキ。用ってのは……」
「おう、ちょっと調べてほしいことがあってな」
「俺にできることかい」
「おめえにしかできねえことかもしれねえ」
「ほう……」
「駒吉神社の金回りについて調べてほしいんだ」
「え……」
永神は驚いた顔になった。「神社の金回り……? なんでまた……」
「たいした理由があるわけじゃねえんだ。いろいろと調べてみたくなってな……」
「なんだよ……。俺はまた、小言でも言われるのかと思ってたよ」
「何で俺が小言を言うんだ?」
「だって、また面倒なことを持ち込んじまったから……」
ああ、自覚はあるんだなと、日村は思った。
阿岐本が言った。
「多嘉原会長の頼みじゃ断れないだろう」
「そうなんだよ」
「それに俺は、面倒なことだとは思ってねえよ」
「そうかい。それを聞いてほっとしたが……。だが、どうして神社の経済状態を知りたいんだ?」
「たいした理由はねえと言っただろう」
「もし、神社が金銭的に困っていたら、一肌脱ごうってことかい?」
「いやいや、俺にそんな甲斐性はねえよ。ただ知りてえだけだ」
「わかった。任せてくれ。ただし、ちょっと時間が必要だ」
阿岐本はうなずいた。
「何かわかったら、すぐに知らせてくれ」
「承知した」
永神が席を立った。
永神も言われたら即行動なのだ。