離婚や死別などで夫と離れ、再び独身生活に戻った女性たち。別れの悲しみや切なさを乗り越えて、彼女たちが辿り着いたのは、人生の次なるステージだった──(取材・文=丸山あかね イラスト=木村桂子)
介護をしない選択をして、本来の自分を取り戻した
「夫と離れて暮らすようになって、ピアノのレッスンを再開しました。1年前から、月に2度の個人レッスンを受けています」
と穏やかな口調で語るのは、三橋陽子さん(68歳・仮名)。6歳年上の夫が前立腺がんと診断されたのは4年ほど前のこと。放射線治療、抗がん剤治療を経て完治したが、副作用で体が衰弱してしまい再び入院。要介護4と認定された。
「ケアマネジャーさんと相談した結果、病院からそのまま特別養護老人ホームに入所させることにしました。実は、私には40代のときにご近所トラブルからうつになって通院していた時期があるのです。介護をして、ストレスがたまると再びうつになる自分の姿が目に見えるようで、共倒れになるのが怖かった。
一人息子は遠方にいるので頼れませんし……。夫は在宅介護を望んでいましたが、お互いのためだと説得したところ、静かに受け入れてくれました」
週に1度、夫のもとを訪ね、会話を交わす時間を大切にしているという陽子さんだが……。
「一人暮らしに不便は感じません。身の回りのことは自分でできますからね。それに夫は穏やかな人ではあるけれど、一緒にいるとイラッとすることもありました。神経質で決め事が多く、特に定年退職後は朝、昼、晩の食事時間に縛られて大変だったのです。
何より問題は、夫が非社交的なこと。友達がいないから、家と私にベッタリ張りついて……。大きな声では言えませんが、夫のいない生活は、思っていたよりずっと快適なんです(笑)」