でもこれは序章に過ぎなかった。2年ほどは大阪公演のたびに娘と出かけていたが、あるとき、娘の都合がつかず、加奈子さん一人で行くことになり……。

「会場で隣の席の人と知り合って、公演後に近くの喫茶店で行われる『きよ友の集い』に誘ってもらったんです。それまで氷川さんが好きなことは周囲に内緒にしてたけど、『しびれるほどカッコよかったわ~』『氷川さんの歌は日本一や!』と思いの丈を吐露したらスカッとしました。コレや! と思って、きよ友たちとLINEで連絡を取り合って、全国の公演会場へ足を運ぶようになったんです」

握手は3回、昨年はツーショット写真撮影の抽選に当たったと自慢げだ。

「夫の遺影は仏壇の裏に片付けて、氷川さんと撮った写真をグーンと引き伸ばして飾ってます。部屋にある氷川さんグッズは、私が死んだら棺桶に入れてと息子に頼んでる」

それにしても、気になるのが費用だ。チケット代に交通費に宿泊代にグッズ代……出費がかさむはずだが。

「みんなでレンタカーを利用すれば、新幹線より安くあがるし、宿泊しないで帰れるし。来年の20周年記念公演のきよシート(特等席)は2万円。私は3回行く予定なんだけど、10年も前から毎月1000円ずつ貯金してきました。

遺族年金は生活費に消えてしまうので、ミシンで布団カバーを縫う内職をしてるんです。いずれにしても健康第一やから、ウォーキングを続けて体力づくりをしてます。

氷川さんのおかげで元気やし、最高に楽しいし、これまでで今が一番幸せ。氷川さんは神様からのプレゼントや!」

奇跡の人と称されるヘレン・ケラーは、「一つの幸せの扉が閉じるとき、別の扉が開く」という言葉を残している。パートナーと離れて一人になっても、それは孤独の始まりではなく、新しい人生の幕開けなのだ。
 


ルポ・夫から解放されて、新しい夢が見つかった
【1】酒乱夫と別れて、少年鑑別所帰りの息子と向き合った日
【2】モラハラ夫の死後、「氷川きよし命」で西へ東へ