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長年、歴史小説を愛読している杏さんは作家の浅田次郎さんの大ファン。9年ぶりの再会に、杏さんの子育てから、苦しい時の乗り切り方、そして浅田さんの新作まで、話が弾みました。後編は歴史の中の「流行り病」の話から――(構成=南山武志 撮影=大河内禎)
流行り病はいつの時代も
杏 『流人道中記』は幕末のお話で、だからこそ武士道や家制度について正面から異議を唱える、玄蕃のような人物の出現する余地があったのでしょう。そういうふうに、いろんなものの価値観が大きく変わりつつあるという点では、今のこの時代は、幕末に似ているんじゃないかと感じるんです。
浅田 まったくその通りですね。
杏 「武士とは何か」と同じように、ものの本質とか、何が大事なのかということを、自分の頭で考えて行動する社会にならないといけないのだけど、現実はどうなんだろう、って。
浅田 その考えるべき中身も、本当は相手のことに思いを馳せるのが社会の正しいあり方であるはずなのに、なにか「自分のため」ばっかりになっているよね。日本人が大事にしてきたはずの「仁の精神」が廃れて、アメリカの悪いところばかり真似してるような気がして仕方がない。
杏 そういう意味でも、このタイミングで、幕末を舞台にした作品を読めたのはよかったです。小説ではないのですが、この間、興味を引かれて『日本人の病気と食の歴史』(奥田昌子著)という本を読んだんですね。長い歴史をひもとけば、コロナのような疫病の流行は何度もあったし、落ち着いたとしてもいつかまたやってくる。人類が生き続ける限り、避けられない宿命のようなもので、だからといって安心はできない。
浅田 僕が68年生きてきて、今回のような流行り病は、経験がないのです。でもそれは、たまたまラッキーだったというだけのことなんですよ。長い目で見たら、いつの時代も多くの人に命の危険が迫るような病気の連続だった。
杏 江戸時代には、飢饉も珍しくなかったですし。
浅田 「飢疫」という言葉があるくらいで、両者がワンセットで襲ってくることも多かったのです。
杏 そう伺うと、私たちはとりたてて異常な時代に生きているわけではないとわかります。