「多少のことでへこたれていちゃいけない、と自分に言い聞かせるんです。子どもがちょっとくらいご飯を食べなくても死ぬことはないでしょう、って。」(杏さん)
長年、歴史小説を愛読している杏さんは作家・浅田次郎さんの大ファン。9年ぶりの再会に、杏さんの子育てから、苦しい時の乗り切り方、そして浅田さんの新作まで、話が弾みました。(構成=南山武志 撮影=大河内禎)

幼な子3人の子育てが大変でも

浅田 新選組をテーマにした『一刀斎夢録』を書いたときに対談して以来だから、9年ぶりですか。すっかり大人の女性になったね。

 ありがとうございます。またお目にかかれて嬉しいです。

浅田 偶然だけど、ちょうど今、あの作品を読み直してるんですよ。チェックなんかも入れながら。

 そうでしたか! 作家さんも、ご自分の作品を読まれるんですね。

浅田 最近はそればっかり(笑)。なぜかというと、体も頭も衰えてきて、仕事のレベルが落ちていないか確認するためなの。衰えを感じる部分もあれば、そこそこよくなっているところも発見するんだけれど。杏さんは、昔のドラマや映画を見返したりはしないの?

 そうですね、「あのときは楽しかったなあ」と振り返るくらいでしょうか。女優デビューしたての頃の作品は、怖くて見る勇気がないです。(笑)

浅田 それにしても、コロナで世の中がこんなに変わるとは、思ってもみなかった。女優さんも大変でしょう。

 私の仕事は、どこかに出かけていって人と関わり合うことなんだ、というのをあらためて実感しました。それができないので、本当に何もやることがなくなってしまって……。でも、この「非日常」で感じたことはしっかり残しておきたいと、自粛期間中に日記をつけていました。お婆ちゃんになったときに、孫から「あの大変な時期をどう過ごしたの?」って、フィールドワークみたいな感じで質問された自分を想像しながら。

浅田 苦しいときに、そうやって客観的に自分を見つめられるのは、すごいなあ。作家は普段から自粛生活みたいなものだから、あまり変わらない(笑)。僕の場合はツイていて――と言うと語弊があるのだけれど、コロナ前にちょうど次の作品の取材が終わっていた。神様に、「お前は書斎に籠もって原稿用紙に向かえ!」と言われているような気持ちで仕事していましたよ。杏さん、お子さんは何人いらっしゃるんだっけ?

 4歳になる双子の女の子と、2歳半の男の子の3人です。

浅田 そりゃ、お母さんにとって一番大変なときだ。