歴女としても知られる杏さん(左)と作家の浅田次郎さん(右)(撮影:大河内禎)

 私、子育ての中で自分に言い聞かせているスローガンがあるんです。「戦国よりはマシ!」って。

浅田 ははは。それはまた、“歴女”の杏さんらしい言い回しだけれど、そのココロは?

 昔の子育てが、どれほど大変なものだったのか。例えば、『江戸の乳と子ども――いのちをつなぐ――』(沢山美果子著)という本があるんです。哺乳瓶も粉ミルクもない時代には、赤ちゃんにとって母乳だけが、文字通りの命綱でした。

浅田 お母さんのおっぱいが出なかったら、生きられなかった。

 にもかかわらず、地位の高い人に子どもが生まれると、村中から乳の出る女性が集められて、その結果、彼女たちは自分の赤ん坊におっぱいをあげられない、なんていうこともあったようです。

浅田 そういうつらさに比べたら、今はずっとマシじゃないか、と。

 多少のことでへこたれていちゃいけない、と自分に言い聞かせるんです。子どもがちょっとくらいご飯を食べなくても死ぬことはないでしょう、って。そういう話を友達にすると、「出た、杏の極論」って言われるんですけど。(笑)

浅田 いやいや、正しい歴史の学び方ですよ、それは。僕には、杏さんのお子さんと同じくらいの年の孫がいます。

 同居なさっているんですか?

浅田 いや、時々遊びに来る。でも、祖父が何をやっている人間なのか、まだよくわかっていないんだね。明日が締め切りっていうときに気配を感じて振り向くと、絵本を持って立ってるんだよ。「ご本読んで」って。(笑)

 あははは。かわいい。

浅田 この前、「今、ご本を書いてるからね。書き終わったら読んであげるから」と言ったら、「ご本を書いてる……?」と相当考え込んでましたね。そして、座敷童子みたいに、ふっといなくなった。

 おじいちゃんの仕事を、なんとなく理解したのかもしれませんね。

浅田 畳の部屋で胡坐をかいて、万年筆を走らせている図なんて、今の子どもにとっては、不思議以外の何ものでもないでしょう。「魔法使いの爺」くらいに思っているのかもしれない。杏さんのお子さんは、お母さんの職業を理解しているんですか?

 ぼんやり理解はしているようです。ここに映っているのは、お母さんではなくて鐘子さん(ドラマ『偽装不倫』の主人公)、みたいに。

浅田 別の人を演じているというのは、わかっているんだね。

 ジイジ(渡辺謙さん)のこともわかっているし(笑)。前にNHKのスタジオパークに行ったときに、ポスターを見て「これジイジ(渡辺謙さん)だよ、お父さん(東出昌大さん)だよ、おじさん(渡辺大さん)だよ」って。

浅田 そうか。生まれたときからその環境にあれば、理解は早いかもしれません。