非行が善行に変わる可能性とは
「なにガンつけてるんだ!」と因縁をつける若者がいる。「ニヤニヤして自分を馬鹿にするから殴った」という少年も多い。なぜか?
私たちの多くは、彼らが非行少年だから、ワルだからと思っているが、医療少年院で勤務した著者によるとそれは誤りだ。そもそもそうした少年の多くは認知が歪んでいるというのだ。
それを象徴するのが「ケーキの切れない非行少年たち」というタイトルで、物事を正確に見聞きする能力が低い彼らは中高生になってもケーキを三等分することも、見本の図形を写すこともできない。
「IQ(知能指数)70未満」の知的障害(全体の2%)であればさまざまな保護を受けるが、非行少年の多くはIQ70〜84の「境界知能」(14%)。いっけん普通の人と区別がつかないため、できないことがあると、やる気がない、不真面目と教師や親から責められ、クラスではイジメられる。そのストレスが犯罪を誘発するというのが著者の見解だ。
どうしたらよいのか。最終章に、著者が認知能力を高める指導をしていた時のエピソードが登場する。「こんなことは無駄だ、意味がない」という少年たちの態度に著者は嫌気がさし、「では替わりにやってくれ」と言うと、少年たちが次々と「僕が教える」と手をあげ、楽しそうに教え始めたという。人から頼りにされなかった彼らが頼りにされる。そこに非行が善行に変わる可能性がある。
今夏の刊行から注目が広がり、25万部。本の帯には、〈「すべてがゆがんで見えている」子どもたちの驚くべき実像〉とあるが、著者の指摘が本当なら、真の問題は「非行少年を見る目がゆがんでいる社会の驚くべき実像」でありそうだ。
著◎宮口幸治
新潮新書 720円