(イラスト:Futaba.)
喜びも悲しみも31文字に込めて――。短歌は1300年近く愛され、親しまれてきた表現方法です。昨今のブームを受け、本誌2023年11月号では、短歌作りの基礎から魅力的な一首にするコツまでを俵万智さんが解説。その実践編として、「愛」をテーマにした歌を読者の皆さんにご投稿いただきました。応募作全1527首のなかから、俵さんが優秀作と佳作を発表します

俵万智さんによる全体評

俵万智さん

短歌特集を読んで、こんなにも多くのかたが取り組んでくださったことを、心から嬉しく思う。応募してみようかなと思ってから、歌を詠み始めるまでの時間、みなさんの中には、心地よい緊張感があったのではないだろうか。

朝、窓を開けたときに感じる風。電車やバスに乗ったときに見かけたできごと。コンビニやスーパーで感じる季節感。日常のあらゆる場面で「あ、歌になるかも?」と立ちどまる。愛というテーマを意識することで、身近な人への気持ちを再点検してみる。そういう時間を持てることこそが、短歌の醍醐味だ。

忙しい毎日のなかで、ふとした時に心を立ちどまらせる豊かさ。それを味わうことができたなら、まずは短歌の世界にようこそと言いたい。

2023年11月号には、歌人・岡本真帆さんとの対談も収録。「作者の意図とは違うものを読者に見つけてもらえたら、その歌がすごく豊かになる」という俵さんの言葉が印象深い

特集の中の「入門レッスン」を丁寧に読んでくれた人も多かったようだ。比喩を工夫したり、オノマトペを活用したり、数字や色彩を取り入れたり。中でも会話を活かして成功している作品が多かった。このような表現の工夫をすることは、「何を」歌うかを見つけた後の「どう」歌うかというお楽しみのステップ。ここを楽しめれば、歌作りはいっそう充実したものになる。

愛という大きなテーマだったが、みなさん日常の中に種を探して、身近な家族や恋人、友人などへの思いを31文字に託しておられた。抽象的になりすぎていないのが良かったと思う。

集まった1527首の短歌は、1527種の思いだ。言葉というカタチにしなかったら、もしかしたらそのまま消えていってしまったかもしれない。でも、こうして短歌というパッケージに詰めておけば、いつまでも残るし、いつでも取り出せる。

相手に面と向かっては言えない思いを詠んだものも多かった。短歌という形式なら照れくささも軽減されるのではないだろうか。ぜひ素敵な手紙として届けてもらえたらと思う。

五七五七七という封筒に心を詰めて短歌は手紙