俵万智さんによる全体評
短歌特集を読んで、こんなにも多くのかたが取り組んでくださったことを、心から嬉しく思う。応募してみようかなと思ってから、歌を詠み始めるまでの時間、みなさんの中には、心地よい緊張感があったのではないだろうか。
朝、窓を開けたときに感じる風。電車やバスに乗ったときに見かけたできごと。コンビニやスーパーで感じる季節感。日常のあらゆる場面で「あ、歌になるかも?」と立ちどまる。愛というテーマを意識することで、身近な人への気持ちを再点検してみる。そういう時間を持てることこそが、短歌の醍醐味だ。
忙しい毎日のなかで、ふとした時に心を立ちどまらせる豊かさ。それを味わうことができたなら、まずは短歌の世界にようこそと言いたい。
特集の中の「入門レッスン」を丁寧に読んでくれた人も多かったようだ。比喩を工夫したり、オノマトペを活用したり、数字や色彩を取り入れたり。中でも会話を活かして成功している作品が多かった。このような表現の工夫をすることは、「何を」歌うかを見つけた後の「どう」歌うかというお楽しみのステップ。ここを楽しめれば、歌作りはいっそう充実したものになる。
愛という大きなテーマだったが、みなさん日常の中に種を探して、身近な家族や恋人、友人などへの思いを31文字に託しておられた。抽象的になりすぎていないのが良かったと思う。
集まった1527首の短歌は、1527種の思いだ。言葉というカタチにしなかったら、もしかしたらそのまま消えていってしまったかもしれない。でも、こうして短歌というパッケージに詰めておけば、いつまでも残るし、いつでも取り出せる。
相手に面と向かっては言えない思いを詠んだものも多かった。短歌という形式なら照れくささも軽減されるのではないだろうか。ぜひ素敵な手紙として届けてもらえたらと思う。
五七五七七という封筒に心を詰めて短歌は手紙