10年ぶりにオリジナル・アルバムを発表する竹内まりやさん。デビューから45年、自分をかたちづくってきた言葉や家族についての思いを語る(構成=内山靖子 撮影=五十嵐隆裕)
17歳の心に残ったのは
人生で初めて体験する70代が、刻々と迫っています。どんな時にも心に抱いている座右の銘が、二つあって。一つは、17歳でアメリカに留学した時に出会った言葉で、学校のカレンダーに「今日があなたの残りの人生の最初の日です」と書いてあったのです。
もう一つは、「今日を人生最後の一日だと思って過ごしてみよ」という、スティーブ・ジョブズがスピーチで語った言葉。どちらも「目の前の一日を精一杯生きよう」ということを表現しているんだな、と受けとめてきました。
とくに17歳で目にしたこのフレーズ、いま69歳になって、ますます重みを感じるようになってきましたね。過去を悔やんでも変わらないし、これから訪れる未来を恐れても仕方ない。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、大切なのは「いまを生きる」ということ。今日が自分の余生の初日だと考えれば、何歳になってもやりたいことを見つけよう、と思えますし。
前回、『婦人公論』の取材をお受けしたのは17年前、10枚目のアルバム『Denim』をリリースした時でした。当時、50代になったばかり。40代の終わり頃は50代になるのが憂鬱に思えたのですが、50代になったらかえって人生の見晴らしがよくなったこともあり、60代を迎える頃はとくに不安はなかったんですよ。
ただ65歳を過ぎ、「四捨五入すると70歳!?」とハッとして。人生はこんなにも早く終わっていくのだと、そこで初めて「残り時間」をリアルに意識したんです。これまで以上に「一日一日を大事に生きよう」と思う気持ちが強くなりました。
年齢を重ねるにつれて、受け入れにくいこともありますよね。たとえば、肉体的な衰え。私も実感しています。先日も正座しようとしたら、右ひざに違和感があって座りづらい。少し前には右肩が急に上がらなくなり、「これが、みんなが言うところの《六十肩》か!」って(笑)。とはいえ私だけが老いていくならつらいけど、《経年劣化》は誰にも平等に訪れるものでしょう。
シワが気になることもありますが、そんな時はもう一人の自分が、「みんな一緒なんだから、あきらめよう」って諭してくれる。その代わり、「人としての経験値が増して、若い頃よりも少しは賢くなっている」と感じます。肉体の衰えを嘆くより、精神の豊かさが増したことを喜んだほうが、人生を前向きに楽しめるのではないかと思います。
この秋、10年ぶりのアルバムを発表することになりましたが、タイトルを『Precious Days』(かけがえのない日々)にしたのも、残された一日一日を慈しみ、大切に過ごしていきたいという思いがあったからです。