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在宅医療に長年携わり、多くの生死を見つめてきた医師が、死が縁遠くなった現代に伝えたいことは

冷たい手をさする体験があってこそ

楳図かずおさんが亡くなりました。西田敏行さんも、ピーコさんも大山のぶ代さんも旅立ちました。小澤征爾さんは、おそらく天国でも音楽を愉しんでいるでしょう。

こうした著名人の訃報を目にしたときには確かに死を意識します。以前は新聞に告別式の日時と場所が書かれていたものですが、最近は家族葬で済ませたという内容の訃報が多いように感じます。

かつてのような葬儀場での大がかりな式をしなくなったのです。告別式で故人の生前のことを思い出したり、仲間で話をしたりすることは少なくなりました。

そういえば、亡骸(なきがら)を目にすることもめっきり少なくなりました。血の気のなくなった顔を目にし、冷たい手をさする体験があってこそ、死の恐ろしさと悲しさを実感し、人生の無常を理解できるのです。

今や死を見つめ死を考える機会はなくなったと言ってもいいでしょう。医学生や看護学生ですら、看取り体験をしないで卒業することも決して珍しくはなくなりました。