原口範さん(写真提供:原口さん)
年齢を重ねても無理のない範囲で収入を得られたら――。趣味や特技を活かせるものであればもっといい。そんな仕事に出合い、生き生きと過ごす人たちに話を聞いた

息子の妻の勧めで

栃木県芳賀郡市貝町にある、「道の駅サシバの里いちかい」で、3年前から手作りのてまりを販売している原口範(のり)さん(90歳)。きっかけは長男の妻に、「趣味で作るのも楽しいでしょうけど、せっかくだから売り物にしてみたら励みになるんじゃない?」と言われたことだったと話す。

「4年前、コロナ禍を機に長男夫婦と暮らすため鹿児島から引っ越してきたんです。知り合いのいない土地で、家にこもりがちになる私を心配した彼女が道の駅での販売を提案してくれて」と振り返る。

原口さんは「日本てまりの会」師範。鹿児島にいた頃は作品を百貨店に卸し、てまり制作教室を開いていた。その技術を活かさないのはもったいないと、長男の妻が作品を抱えて道の駅にかけあってくれたのだ。

「何の伝手もないのに飛び込みで行ってくれて、先方から『こういったものはなかなかないので、ぜひ置いてください』と言っていただいたんです。嬉しかったですね」と原口さん。

道の駅で売られている商品は、地元の野菜など手ごろな価格が多い。そのためてまりの価格も低めに設定し、百貨店では5000~6000円の値をつけていたものを半額以下で販売。ほかにちりめん細工の雛飾りや端午の節句の兜といった季節もの、ブローチなども作り販売している。つややかな絹糸で彩られたてまりは雅びやかで美しい。

「道の駅では今のところ、一番売れた月で2万円ほど。材料費とトントンくらいの売上ですが、作品が人に認められる嬉しさには代えられません。最初のお客様はその後、直接オーダーもしてくださり、今も交流が続いているんですよ」と、目を細める。