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「団塊の世代」が全員75歳以上となる2025年。後期高齢者の増加を背景に、「住み慣れた家で最期を迎えたい」と考える人も増えています。医師の姉による仕切りのもと、がんになった母を在宅で看取り、家族葬で送ることになった尾崎英子さんは「大切な人の旅立ちを見守るということは、どんなに準備しても不安がつきまとうもの」と話します。そこで今回は、尾崎さんの著書『母の旅立ち』から、一部引用、再編集してお届けします。

「脳転移?」

その一報を姉、ようこからもらった時、わたしはシンガポールにいた。

赤道直下の7月終わり、猛暑で燻くすぶっているような青空の下で、わたしは姉からの電話を受けた。

 

「もしもし」

「あっ、えいちゃん。お母さんが倒れて病院に搬送されたんよ。MRIの結果脳転移による癌性髄膜炎やった」

「脳転移?」

「原発の乳がんがいろんなところに転移していて、脳にもやな」

脳、というのはインパクトが大きかった。

「えっ……大丈夫なん?」

 

いやいや、大丈夫なわけがない。

病気が見つかった時にはステージ4の乳がんで、まともな標準治療を受けていないのだ。大丈夫なわけがないし、いろんなところに転移していることは予見できていた。