『あんぱん』脚本担当の中園ミホさん
俳優の今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしと、妻・暢の夫婦をモデルとした物語です。ヒロインの<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。2人が荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでにはどんな物語があったのか。幼いころにやなせさんと文通していたこともある脚本担当の中園ミホさんに作品に込めた思いを聞きました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

「やなせ夫妻なら」

朝ドラの脚本は『花子とアン』で経験していますが、朝起きたら息つく暇もなく書かなくてはいけない。私はお酒が大好きなのですが、飲みに行けなくなるくらい忙しくなるのはわかっていました。体力も心配でしたし、筆が早いほうではないので、たくさん書かなくちゃいけないこともプレッシャーでした。半分断るつもりでしたが、それでも「やなせ夫妻を描けるなら、私が書きたい!」との思いからお引き受けしました。

(『あんぱん』/(c)NHK)

やなせさんと文通していたのは、10歳で父を亡くしたときに、やなせさんの詩集『愛する歌』を読んでファンレターを出したことがきっかけでした。<たったひとりで生まれてきて たったひとりで死んでいく 人間なんてさみしいね 人間なんておかしいね>という詩にすごく救われたからです。

お会いした頃は代表作がないことを気にしていらして、お手紙でも愚痴っぽかった。小学生の私に「またお金にならない仕事を引き受けてしまいました」とか書いているんですよ(笑)。音楽会にも何回か呼んでくださいましたが、お会いするといつも「お腹すいてませんか」と、優しく声をかけてくださいました。

やなせさんとの文通は、大変失礼なのですが、思春期になって私の方から止めてしまいました。その後19歳のときに代々木の交差点を歩いていたら、向こうからやなせさんがいらして偶然再会しました。不思議なご縁ですよね。

でも、私はこうして書く仕事に就いた後も連絡しなかった。今思えば、やなせさんのおかげで詩を書き続け、脚本家になりましたって手紙ぐらい書けばいいのに。仕事とシングルマザーとしての子育てに精一杯でできなかったのです。ただ、ここ数年、「やなせさんが生きておられたら、今の世の中を見てなんておっしゃるだろう」とよく考えるようになっていました。そのタイミングで朝ドラのお話をいただきました。