日本テレビ『ちはやふる-めぐり-』は競技かるたに打ち込む高校生たちの青春ドラマ。競技かるたを知らなくても楽しめる。現代の高校生たちの希望や悩み、親との関係などを具体的に描いているからだ。
1960年代半ばから70年代に隆盛を誇った青春ドラマはバブル期に激減した。その後、増えない。バブル期には「熱血」と「純情」が冷笑される風潮があったが、それと無関係ではないだろう。この物語には熱血も純情もある。
主人公は藍沢めぐる(當真あみ) 。梅園高校の2年生で競技かるた部に所属している。ただし幽霊部員だ。ピザ屋とレストランのアルバイトを掛け持ちしており、そのうえ学習塾にも通っているから、部活動など出来るはずがない。
それでも入部したのは「内申点に有利と聞いたので」(めぐる)。私立大合格者の5割以上がAO入試組と推薦入試組で占められる現代らしい理由だった。
バイトの目的は生活のためではなく、長期積立投資をしているから。競技かるた部顧問の大江奏(上白石萌音)は「未来のために今を犠牲にしすぎるのも・・・」とやんわり苦言を呈するが、めぐるは聞く耳を持たない。
投資はFIREのためなのだという。経済的な自立を早期に達成し、リタイアするライフスタイルのことだ。
「人生がデスゲーム化している世界では、それこそが最適解なのです」(めぐる)
共鳴は出来ないが、気持ちは少し分かる。明るい未来が見えにくい時代が続いているから、高校生たちが先々の安定を第一に考えるようになっても不思議ではない。
めぐるが冷めた考え方しか出来なくなったのは中学受験に失敗したためだ。「自分は負け組」「誰かの脇役」と強く思い込むようになってしまった。
高校生の思い込みと笑い飛ばすことは出来ない。小学校から大学まで偏差値で序列化し、その数字の高低で個人の価値まで決めてしまうような風潮が今の世の中にはある。
振り返ると、そんな風潮が強まり始めたのもバブル期以降。その分、受験に失敗した若者は強い挫折感を抱きやすくなっている。