(『あんぱん』/(c)NHK)
今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと、妻・暢さんの夫婦をモデルとした物語です。<柳井のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。「愛国の鑑」と言われ、軍国少女となったヒロインのぶは朝ドラでは異色の存在。「逆転しない正義」を求めたやなせさんを描くために『あんぱん』では真正面から戦争を描いてきました。やなせさんの秘書として、20年以上にわたり支え続けた、やなせスタジオ社長・越尾正子さんにやなせさんの素顔や戦争への思いを聞きました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

弟への思い

<やなせたかしさんは、1941年1月、21歳の時に徴兵された。小倉の野戦銃砲部隊に入隊。その後、44年に中国・福州に派兵された。昭和21年、27歳で復員。その後、2歳下の弟・千尋の戦死を知った。やなせさんは「アンパンマンを描いていると、ふと千尋に似ていることに気づいた」と話していたこともあるといい、弟は大きな存在だった>

やなせ先生は年々戦死した弟さんに対する思いが増していたようでした。「年々さみしさ、つらさが増す。もし今生きていてくれたらどんなに心強い存在だろう。昔よりも今の方が1000倍悲しい」と言っていました。

やなせスタジオ社長の越尾正子さん:やなせスタジオ提供

これは私の推測ですが、千尋さんが人生を全うして、どうしようもない病気とか抗いきれないもので死ぬのなら諦めがついたかもしれません。

でも、千尋さんはまだ死なんか遠い存在だった元気な時期に戦争で死ななくちゃいけなかった。自分が年をとればとるほど、弟さんを失った寂しさ悲しさが増していったのが、先生の正直な気持ちだなと思って傍で聞いていました。