先のことが予測できない時代になってきている今、スポーツやビジネス、教育などにおいて求められる「リーダー像」も変化しつつあります。そこで今回は、元サッカー日本代表監督で、現在は愛媛県今治市の高校「FC今治高等学校里山校」(通称FCI)の学園長を務めている岡田武史さんと、岡田さんと共に教育現場の最前線でリーダー教育に努める教育者・工藤勇一さんによる共著『THE CAPTAINSHIP(ザ・キャプテンシップ):絶望を希望に変えるシン・リーダー論』から、お二人の対談を一部抜粋してお届けします。
リーダーになった人だけが見られる「絶景」がある
初めてのリーダーへの不安
Q 実際に自分がリーダーになった後、どんな経験をすることになるのか不安です。
周りの期待を上回れないのではないか、自分の意見を押しつけようとしていると嫌われるのではないか、リーダー役を担うことで自分が成長できるのか……悩んでいます。(30代)
Q 実際に自分がリーダーになった後、どんな経験をすることになるのか不安です。
周りの期待を上回れないのではないか、自分の意見を押しつけようとしていると嫌われるのではないか、リーダー役を担うことで自分が成長できるのか……悩んでいます。(30代)
岡田 意外に思われるかもしれませんが、僕は最初に日本代表監督に就任した時、「監督をやることで、自分がどう成長できるか」という視点を持っていませんでした。というのも、僕はあの時監督になろうと決意したとか、リーダーになるためのテストを受けるといったタイミングがなく、コーチをやっていたら「じゃあお前、監督な」と言われて監督をすることになっただけですから。
自分が代表監督になったらこんな指導をしよう、こんなふうに選手たちに働きかけよう、それが受け入れなかったらどうしよう……と考える間もなくリーダーになっていました。だから、この人の悩みに答えるのに適当なキャリアではないかもしれない。
それでも一つ言えるのは、「リーダーになったことは、間違いなく自分を良い方向に変えるきっかけになった」ということです。僕は監督になったことで、人にどう思われるかに関係なく、ありのままの自分をさらけ出せるようになりました。
「ここで結果を出さないと、チームの目標が達成できない」という崖っぷちの状況の中で必死に試行錯誤していったことで、次の扉が開いていった。代表監督として結果を出したからこそ、今の自分があるのは間違いありません。
これは僕の身の上に起きたことですが、同じような変化は時代に関係なく、他のどの世代でも起こりうることだと思います。例えば長谷部(※)などもそうですが、思わぬタイミングでリーダーを経験したことで、自身でも想定外に変化していった。だから、自分の成長を少しでも求めるのであれば、その機会を決して逃してはいけないと思います。
※元プロサッカー選手・長谷部誠さんのこと。岡田さんは、2010年の南アフリカW杯で長谷部さんをキャプテンに選んだ。