NさんがAさんに恋心を抱いているのは、誰が見ても明らかだった…(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは東京都の60代の方からのお便り。勤務先の介護施設に、リハビリのために入所してきた70代の男性。看護師のAさんに、恋をしたようで――。

何歳になっても恋をする

私が働く介護老人保健施設に、Nさんという70代の男性が入所してきた。とある企業の社長をしていた人だというが、脳出血で倒れ、リハビリのために来たという。奥様はとうに亡くなられ、お子さんもいないそうだ。施設の理事長の友人とのことで、職員はみな緊張しながらお迎えした。

悪い人ではないのだが、何かと上から目線で発言。特に食事のときに、味が薄いと注文を付けてくる。そのたびに理事長がなだめるのだ。肝心のリハビリもやらないことが多く、理学療法士が困っている。

そこに、強力な助っ人が登場した。看護師のAさん(60代)である。少しふくよかで、いつも優しい笑顔を浮かべている素敵な女性だ。「Nさん、リハビリがんばってくださいね!」「ハーイ!」。

Nさんはリハビリに積極的に参加するようになり、食事も全部召し上がるようになった。ナースステーションに何度もやって来ては、2人での会話を楽しむ。「今日はAさんはお休みですよ」と言うと、明らかにしょんぼりする。NさんがAさんに恋心を抱いているのは、誰が見ても明らかだった。

ところがある日、Aさんは別の施設に異動になってしまった。するとNさんは理事長にかけあい、なんとその施設に移ったのだ。職員たちも驚いていた。「すごいわね……Aさんは迷惑だろうけど」「彼女も独身だし、案外仲良くやるかもよ」「どうかねえ」。

それから半年が過ぎたころ、理事長が来て言った。「ビッグニュースだよ! あの2人が結婚することになったんだ」「えー!」。「Nさんはリハビリを終えて、家に戻ることになったんだ。それでAさんと暮らすんだって。婚姻届はこの間出したそうだよ」。

理事長はスマホで、NさんとAさんが寄り添う、幸せそうな写真を見せてくれた。私たちはみんなで色紙にお祝いメッセージを書いて贈ることになった。2人も、喜んでくれるといいなと思っている。


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