(画:一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「バナナブレッドの……」です(画:一ノ関圭)
行きつけのスーパーのバナナ売り場には、二割や三割引きのシールのついたバナナが売ってある。あたしは皮に点々の浮いてるような完熟のが好きだから、その、すでに熟した割引きバナナを買ってきて、数日ぶらさげておくと食べ頃になる。こないだふと、バナナブレッドを作ろうと思った。アメリカでよく作ってたあのレシピはどこへと思ったが、もちろん料理本は置いてきた。それでちょっと検索してみたらものすごく簡単なレシピが見つかった。バターじゃなくてサラダ油でいい。悪くなかったけど、ねちねちした。
よく作っていたのに、バナナブレッド、どうもむずかしいと前から思っていた。でき上がりがねちねちするのである。見た目にはパウンドケーキと同じだから、あの食感を期待して食べて、しまった、失敗だと、毎回そう思っていたのを思い出した。
このねちねちな感じ、英語でなんて言うのか。あたしはmushyムシィとかmochyモチィとか言ってたが、それはどうもうちの家庭内英語らしい。あたしが頭の中にうかんだ言葉(蒸しパンやお餅からの連想に違いない)を英語だと思って使って、「マミー、何言ってるのかわかんないよ」と言われながらも、家族の間では定着するというパターンだった。一般英語ではgooeyグーイーと言う。
昔、アメリカの料理本のレシピで作ってたときも、毎回、なんかムシィなのよと言いながら食べてたし、今もムシィだ。
