妖怪にまつわる伝承は全国に数多く存在しますが、妖怪愛好家のライター・宮本幸枝さんは、「いつでも私たち人間の隣にいた『妖怪』を探ることは、過去から現代まで地続きになっている人々の営みを振り返ることでもある」と話します。今回は、そんな宮本さんの著書『ムー特別編集 図説 日本の妖怪百科』より、「歯黒べったり」をご紹介します。
振り返るとお歯黒の口だけ 歯黒べったり
ある人が古い社の前を通ったところ、美しい着物を着た女が顔を伏せていたので、たわむれに声をかけて通りすぎようとした。
振り向いたその顔にはなんと目も鼻もなく、ただお歯黒の大きな口だけが笑っていた――。
「歯黒べったり」は、目鼻のない、いわゆるのっぺらぼうの顔に、その名のとおりお歯黒をべったりとつけた口だけがあるという女の妖怪だ。
通りかかる人を驚かせるだけで、追いかけたり、危害を加えたりといった悪さはしないようである。