家でゴロゴロしている夫に贈りたい
「宮仕えはうんざり。還暦も過ぎたから、のんびりしたい」と、家でゴロゴロする「飯・風呂・寝る」タイプの夫がいたら、本書を贈るといい。米英などほとんどの国には定年はなく、日本の定年制は、戦後の高度成長で人口が急増した国特有のガラパゴス的慣行なので即刻廃止すべきと提言。
労働力不足の社会では、健康なうちは年をとっても働こうと著者は言う。働くことは健康寿命を延ばすもっともいい方法で、結果として年金財政は安定し、介護負担も減り、家でのゴロゴロも減る。定年廃止には一石五鳥のメリットがあるのだ。
「敬老の日」をやめようなど、いっけん過激な主張もあるが、読めば理の当然。「若者が高齢者の面倒を見るのが当たり前」という発想ではもはや社会はもたない。少子高齢化時代にあっては、若者だけが負担を負う制度では活力が奪われてしまうのだ。
「歴史・人・旅」に学び、自分の頭で考える力をつけることをモットーとする著者は、実際に「還暦からの底力」を発揮してきた。還暦でライフネット生命を創業し、古希を迎える年に、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任、近年は毎月のようにビジネス本や歴史、哲学本を出す。「数字・ファクト・ロジック」をもとにした主張、提案には説得力があり、5月に発売後、10万部を突破した。
高齢者の役割は、次世代の子育て支援にもあると主張する本書は、新婚の夫に贈ってもいいだろう。これからの時代では女性の活躍が不可欠という著者は、おむつを替えるなど赤ちゃんの世話をすれば、母性愛なるものの正体であるオキシトシンが男性にも分泌されるとし、イクメンを当然視しているからだ。年齢や男女の役割から自由になれる新書である。
著◎出口治明
講談社現代新書 860円