イラスト:大塚砂織

ベーシックインカムの効力は?

ヨーロッパのなかでも新型コロナウイルスの感染者数が多い国の一つ、スペイン。経済状況が大幅に悪化し、貧困世帯が急増していることを受け、5月29日、ベーシックインカム(最低所得保障)制度の導入が閣議で承認された。

ベーシックインカムといえば、フィンランドで導入実験が行われるなど、他国でも議論が盛んになっている政策。しかし、今回スペインで実施されるベーシックインカムは、コロナの影響によって急増した低所得世帯のみを対象に、最低限の生活を保障する現金給付。所得制限を設けず、全国民に対し一律に現金給付を行うユニバーサル・ベーシックインカムとは異なる。

一人暮らしの場合の受給条件は、収入が月200ユーロ(約2万4000円)以下、3年以上にわたり親元を離れて住んでいることなど、ほかにも細かく設定されている。対象となる貧困層の人々は藁にもすがる思いで申し込んでいるようだが、多くの市民は「条件が厳しすぎて自分には当てはまらない」と、人ごとのように捉えている。

一方で新卒雇用状況が厳しく、世代間格差が問題視されるスペインにおいて、この給付金は若年層にとって不平等を解消する助けになるのでは、と言われている。若者がお金を持つことで、消費の活性化につながる可能性もある。

ただし、このベーシックインカムが継続的な措置となった場合の財政負担は甚大だ。2020年度末には社会保障制度の赤字が550億ユーロに達する見込み。全体的にはこの制度への不安の声が大きく、すでに似たような助成金制度を取り入れている自治体があるため、「なぜ今さら」という意見も。

ベーシックインカム制度の導入は、現政権の母体である社会労働党の票稼ぎでは、といった声も多く上がっている。コロナの影響で人々の生活が苦しいなか、国の借金を増やしてどうするのか、というのが国民の本音だ。

コロナ対策から経済危機への対応まで、政府に対する不満が高まっているスペイン。このベーシックインカム制度も国内ではネガティブな反応が多いが、今後、経済にどのような影響をもたらすか、見守りたい。(マドリード在住・稲垣香織)