「今回のコロナは長引くから、笑いも必然的に変化するね。寂しいなんて言ってらんない。これも自然淘汰かもしれないし」(写真提供:朝日新聞社/2015年撮影)
お笑いタレントとしてだけでなく、映画監督、作家など幅広く活躍する北野武さん。新型コロナウイルスの流行により、お笑いや芸術に対する考えに変化が訪れたようです(構成=岸川真)

浮かれるにはまだ早い

今年も半分過ぎたけど、もうコロナ一色で塗り込められちゃった印象だよね。今まであんなに警戒しまくってたくせに、緊急事態宣言を解除したら「日本モデルが成功」「経済を回そう」なんて浮かれてるじゃない。

でもワクチンが開発されて世界中に行き渡ったわけでもないし、今だって南アメリカやアフリカで感染拡大が進んでるわけで。ブラジルなんて貧困層が何万人も犠牲になってる。世界中、誰かがコロナで死んでるんだもの。それで喜んでちゃマズいよ。元気な時は「グローバル」とか威張っててさ、いざ危機になったらテメエのことしか考えてないじゃない。

今、中小企業や自営業者、非正規労働者、フリーランスが困ってるよな。じゃんじゃんカネを投入すべきなのに、国はビタ一文出すもんかって顔をしてる。だから俺としては、小康を得てるだけの日本の現状なんか素直に喜べないんですよ。

だってね、志村けんさんを助けるために最先端の医療を施したはずでしょ? なのに手に負えず、志村さんは亡くなってしまった。俺があのニュースでこたえたのは、「人類はまだ新型ウイルスに敵わない」という事実なの。

歴史をひもとけば、人類は疫病による滅亡の危機を乗り越えて生き延びてきたってことがわかる。ペストやスペイン風邪も長らく人を脅かしていたわけでさ。狂犬病なんかも撲滅に至ってない。それら病気の流行期には、これで人類も終わりかってくらいに犠牲を出した。コロナだってまだ健在で、これからどういう脅威になるか不確定要素が多い。だから、みんな油断して浮かれてちゃダメだと思うんだ。