バカはズルより数段エラい

小説のキーちゃんは何にも縛られない少年時代なら輝いてるわけだけど、いざ大人社会に放り込まれると浮いちゃう。野獣には居場所がないんだ。それが力では絶対的に食物連鎖のトップに立てるはずの、アウトローのヤクザ社会であろうとね。ヤクザの世界には掟があり、裏切りがある。キーちゃんは考える前に飛んじゃうタイプだから、長生きできないとハナから周りも知ってるわけ。

パッと死ぬのが彼だけならいいけど、語り手の「俺」や仲間の連中はキーちゃんに憧れてヤクザになっちゃう。憧れで道を誤るってことは実人生にもあるよね。俺だってキーちゃんを慕ってヤクザになってたかもしれないもの。でも、凡才は天才にはなれない。

それと同じで、小説の中のバカは、なれるはずのないキーちゃんのマネをして死ぬ目に遭うんだ。でもね、バカはバカなりに純粋で、ズルく立ち回るより数段エラいと思うわけ。現代社会なんて小器用な連中が得をするだけ。バカがなけなしの「野性」を使って人生を爆発させるのは、自滅的だけど、今必要な感性なんじゃないかな。

小説を書くって、頭に浮かんだ場面を字にしていく作業。会話や描写に困ってウンウン唸って書いてる。つらいけれど、夜中から朝まで夢中で続けてしまうんですよ。書き上がった小説はうまくない。でもそれでいい。すごく読みにくくても、必死で書いてる俺の熱量が行間から伝わってくれるなら、そのほうがありがたいものね。

絵も映画も小説もうまくなりたくないっていう大もとは、俺が芸人で、いまだに舞台に立つ前に「ネタは大丈夫か。ウケるかな」ってなことで震えちゃうのと繋がってるのかもね。俺にとっての「新しくもない生活様式」は緊張感を失わずに生きること。ま、そんな感じでヨロシク。(笑)