キレイなものが捨てられない。拾ってくるのもプロ
ご覧のとおり私の家は、絵の具や筆や本や写真、わけのわからないものが増殖して、さらにどんどん細胞分裂しているような状態なんです。これだけたくさん家に仕事の道具があるのに、文房具屋さんできれいな色えんぴつを見ると嬉しくなっちゃう。「うわあ、すごい」って思うと、自然に手が伸びてしまうんです。
最近は立体のオブジェやコラージュ作品を発表することも多くて、きれいな空き箱や包み紙も捨てられません。取っておくだけじゃなくて、拾ってくるのもプロ(笑)。マンションの同じ階にサービスルームがあって、そこへ古新聞を出しに行ったついでに何か持って帰る。(2018年)10月の個展で飾った人形も、そこに置いてあったトルソー(胴体だけのマネキン)に、顔を付けたものなんですよ。
家の中でいちばん好きな場所は、本棚かしら。歌人の秋谷まゆみさんの「本棚をずらせばそこに秋風のベイカー街へ続く抜け道」という短歌が大好きで、メモに書いて棚の前に貼っています。本を開けば世界中、いつの時代にも行ける。シャーロック・ホームズにも会える。私は小さい頃から本の中の「友だち」に励まされたり、助けてもらうことが多くて。やっぱり簡単には捨てられませんよね。
さっきの短歌みたいに、日常で気になった言葉を書き留めたメモやいただいたお手紙、取材してもらった記事などもしまっておくと忘れてしまうから、家具や壁や冷蔵庫にペタペタ貼って飾っています。ほかにも、帽子の箱の中に、単語帳やメモ帳に書き留めたものがギッシリ。それも私の大切な宝物です。
メインで使っている部屋には仕事机と本棚、キッチンの前に椅子があるけれど、それ以外は物に埋まって、使えるスペースはほんのわずか。そこで絵やエッセイのお仕事をしたり、小さくなってご飯を食べたりしています。その意味で「小さな暮らし」かも。(笑)
そんな様子を見て「パリの屋根裏部屋みたいですね」と褒めてくれる人がいて、それこそ私の理想だわって嬉しくなりました。気取って聞こえるかもしれないけれど、広くてゴージャスでロココ調の家具が揃っているような暮らしは全然いらないの。グルメとか美食っていわれるものも、一回食べて「なるほどこういう味か」と納得したら、繰り返し食べたいとは思わない。基本的にあまり、贅沢なものに興味がないのかもしれません。