古関裕而、30代の頃(写真提供:古関裕而の長男・古関正裕さん)
NHK連続テレビ小説『エール』で、窪田正孝さんが演じる主人公・古山裕一のモデルは、名作曲家・古関裕而(こせきゆうじ)だ。ドラマでは「若鷲の歌」が完成した。遺族にも取材して古関の評伝を書いた刑部芳則さん(日本大学准教授)によると、2曲作成したのは史実だそうで……

※本稿は、評伝『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)の一部を、再編集したものです

「これだ、長い間求めていたのはこれだ」

昭和18(1943)年5月にコロムビアから東宝映画「決戦の大空へ」の主題歌の作曲依頼がきた。海軍航空隊予科練習生を題材としたため、古関は土浦の霞ケ浦航空隊に一日入隊し、起床から就寝までを見学した。

古関は「若い少年たちの真剣で敏しょうな動作、勉強中の教官に対する熱心なまなざし、また航空計器等に対する慎重な取り扱いと探求心あふれる態度には、何か打たれるものがあった」という。

 

『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)※電子版もあり

西条八十が作詞した「若鷲の歌」の最後には「ハア ヨカレン ヨカレン」とあったが、これでは曲調が明るくなり、古関が見た予科訓練生の姿とは一致しなかった。最後の一行は、西条と話し合った上で、削除することとなった。

古関は歌詞を受け取ったものの、なかなか良い曲をつけることができず、霞ケ浦航空隊で曲を披露するときを迎えてしまう。試行錯誤して長調の曲ができたが、土浦に向かう常磐線の車中で突然短音階のメロディーが頭のなかに流れてきた。古関は「これだ、長い間求めていたのはこれだ」と、急いで五線譜に書いた。

同車していた歌手の波平暁男と伴奏者に譜面を渡し、小声で歌わせると、それを聞いたディレクターが「これはいい。この曲の方が受けるかもしれない」といった。