スウェーデン・ミステリー界の大御所が描く

またまた渋い男女バディが活躍する戦慄の北欧ミステリー、クライム・ノベルが上陸した。著者アルネ・ダールは、本国スウェーデン・ミステリー界では押しも押されぬ大御所だという。

冒頭、夏の日差しのなかボートハウスに向かって走る少年たち、というまぶしいシーンからはじまる。しかし次の瞬間、激しい雨が降るなか、今しも捜査課メンバーたちが事件現場に突入しようとしている緊迫場面に変わる。ストックホルム警察犯罪捜査課サムエル・ベリエル警部は、3件の15歳の少女失踪事件を追っていた。ある通報で廃屋同然の家に強行突入したが、そこはもぬけの殻で、犯人の罠だったことを知る。そして3枚の現場写真に写り込んでいた自転車の女性に気づく。同じころ公安警察のモリー・ブロームもまた単独でこの事件を捜査していた。

もっとも読み応えがあったのは、第二部、取調室でベリエル警部が自転車の女を尋問するシーンである。密室でくり広げられる丁々発止のやりとりには固唾を呑んでしまう。言葉の攻防戦と心理戦、それは逆転に次ぐ逆転で、何度、声をあげそうになったことだろう。異様に長い取り調べの果てに、ベリエルとモリーの過去と追っていた事件の点がつながり線になり、最強の男女バディができあがる過程は胸躍る。

果たして少女たちは生きているのか? プロローグから随所に挟み込まれるボートハウスと少年たちのシーンの意味は? 精妙に張りめぐらされた伏線を回収しながら次々に明らかになる真実は驚愕もの。ベリエルたちが犯人を追っている間、晩秋の冷たい雨に降られ、緊迫感と詩情が交錯するシーンもみとれる。北欧ミステリーの王道を堪能できる一冊だ。

『時計仕掛けの歪んだ罠』
著◎アルネ・ダール 田口俊樹訳
小学館文庫 1100円