撮影◎本社写真部
『流浪の月』で2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさん。その受賞を経て新たに発表したのは滅びゆく地球を舞台にした物語。年齢も立場も違う4人の視点で「自分が生きてきた意味」を問う人間の姿を描いています(構成=野本由起)

創作の原点は漫画

今年の春、『流浪の月』で本屋大賞に選んでいただきました。受賞後は多くの取材を受けましたが、今は家にこもって、ひたすら書き続ける生活を送っています。

そんな私の創作活動の原点は、子どもの頃に描いた漫画です。私は複雑な家庭環境で育ったため、つらい思いをすることがしばしばありました。そんななかでも、漫画を読んだり描いたりする時だけは、現実を忘れて別の世界に没入できたのです。20代半ばで漫画家になる夢を諦めて小説を書き始めましたが、自由度の高い小説という形式が私に向いていたのでしょう。ページ数の制約がなく物語を書ける喜びから、ますます創作に没頭していきました。後に、それが理由で離婚を経験することになってしまいましたが……。

『滅びの前のシャングリラ』は、滅びゆく地球を舞台にした物語です。物心ついた頃には『ノストラダムスの大予言』がブームになっていたため、私にとって“人類滅亡”は身近なテーマ。いつか書きたいと思っていたところ、賛同してくれる編集者と出会い、挑戦することにしたのです。1ヵ月後、小惑星が地球に衝突し、人類はほぼ滅亡する。そんななか、人は最期の時をどう過ごすのか、年齢も立場も違う4人の視点で終末を描きました。

高校でいじめを受けている友樹、やくざ者の信士、女手ひとつで息子を育てる静香、歌手のLoco。4人は、「このまま世界が終わってもかまわない」とどこかで思っている人たちです。そんな彼らでも、唐突に死を告げられるのは納得できない。自分が死ななければならない理由を知りたい。裏を返せば、自分が生きてきた意味を知りたい。生きる理由を探す4人の生は、やがて重なります。

頼りなかった友樹は、憧れの美少女・藤森さんを守ろうと、略奪や殺人がはびこるなか、広島から東京まで彼女と旅をします。ピュアなふたりの存在は、絶望的な世界における一筋の救いの光のよう。信士、そして静香も、友樹たちと行動を共にします。

最終章の語り手Locoは、巫女のような存在です。古来、巫女は災厄に立ち向かうため、歌舞音曲とともに祈りを捧げてきました。現代に置き換えると、それは歌姫だろうな、と。Locoのおかげで、納得のいく終わり方にすることができたのではないかと思います。