イラスト:山本祐布子
「40数年間、メガネに縁のない人生であった。視力はずっと1.5から2.0。どっちかっていうと遠視気味なくらいで、とにかくなんでも良く見えた」はずだったのに。ある日、ブティックで手に取った服のタグを見たそのとき――。
鈴木保奈美さんが『婦人公論』で連載している「獅子座、A型、丙午」。単行本の発売を記念して収録されているエッセイを期間限定で配信します 

失くしもの

ついに失くした。何を? リーディンググラス、いや、この期に及んで格好つけても仕方がない、ええい、老眼鏡だよ!

三本のメガネ(だから老眼鏡だよ!)のうち、一番軽くてケースも薄いのを外出用、百円ショップで買った、潰しても水没しても諦めがつくのをベッドサイド&お風呂用、そしてちょっとインテリっぽいデザインのをリビングルームのパソコンの横に置いていた、このインテリ黒縁君が見つからないではないか。チェックのケースはそこにあるのに。メガネ(ああはいはい、老眼鏡です)は必ず失くすから気をつけてね、って言われていたのになあ。

12月9日に刊行される鈴木保奈美さんの初エッセイ『獅子座、A型、丙午』中央公論新社

40数年間、メガネに縁のない人生であった。視力はずっと1.5から2.0。どっちかっていうと遠視気味なくらいで、とにかくなんでも良く見えた。裸眼で新聞を読む時に、若い頃から両腕を伸ばしてうんと離すので、それ老眼の読み方じゃない? と笑い話になるくらいであった。

うちの母と妹は、メガネなしの顔が想像できないくらいの筋金入りの近眼さんなので、あたしゃあ遺伝子をいただかなくてラッキー、と思っていた。常に道具を携帯していないと生活できないって、なんて不便なんだろう。友人が海外へ行った時スーツケースが届かなくて、数日間コンタクトレンズ無しで苦労した話なんて、ほんとお気の毒。