何のための介護なのかという原点に戻って
多くのメディアで取り上げられ、注目を集めている介護事業所「あおいけあ」(神奈川県藤沢市)。地域を巻き込んだ独自のケア事業は、国際的にも有名になり、今や世界各国から取材・見学者が訪れるという。本書はその「あおいけあ」で実際にどんなケアが行われているのかを、ストーリー漫画と写真、「あおいけあ」社長の解説で紹介したものだ。
漫画は、転職してきたばかりの介護福祉士・多賀かなこを主人公とし、出勤初日の施設内が彼女の目を通して描かれる。認知症のお年寄りたちが、それぞれ得意な作業をしながら共同生活を送っていて、その雰囲気がこれまで働いていた施設と違うことに驚く。先輩スタッフが〈「自立」を支援するのが介護、自分でできることはやってもらうのがうちの方針〉という通り、施設内には自立支援のための配慮と工夫がなされていた。社長はこう解説する。〈――「介助」をゴールにしてはいけないのです。トップゴールは人間関係、それも「よりよい人間関係」にあります〉。
そして、分担家事の食器洗いを拒否しているお婆さんを、どうやってやる気にさせるか。先輩スタッフや社長と相談しながら、お年寄りの心を動かすために試行錯誤していく。自立支援のために奮闘するその過程に、社長の語る〈よりよい人間関係の構築〉が垣間見られることになる。
目の前の業務に必死になりすぎて、つい忘れがちな「介護の原点」に戻ることができる。発想の転換のためのヒントや希望を与えてくれる本だ。いや、介護職に限ったことではない。この「よりよい人間関係の構築」というのは、どんな仕事であっても努力すべきことであり、働いて生きていくことの本質なのではないだろうか。