撮影:霜越春樹
田辺聖子さんが6月6日に亡くなられました。半世紀以上、珠玉の小説・エッセイを書き続けてきた田辺さん。『婦人公論』にも、折にふれてご登場いただき、心に響く言葉の数々を残してくださいました。その中で、最後のインタビュー(2012年1月22日号)を再掲します。テーマは「幸せ」。第二弾は「笑いの効能」についてです。

気ぃよう笑えば

幸せと相性がよいのは、おしゃべりと笑いです。やっぱり、みんなでしゃべって、笑いあっているときは幸せだし、それが気ぃよう暮らす秘訣だと思います。「みんなで笑いあおう」の精神が根底にあれば、なかなか意地悪なことも言えないし、人を傷つけないように配慮する。

もちろん、人とつきあうなかでは耳に痛いことを言わなければならないときもあります。でも、「ちょっと小耳にはさんで、これは黙っていようと思ったけれど、聞いておいたほうが君の役に立つ。聞き苦しいだろうけれど、聞いてほしい」というときでも、ユーモアに包んで会話をもっていけたらいいのね。

「何の話やねん。そんなに役に立つ話か?」と切り返されて、「どれだけ役に立つか、二人で計算しよか」なんてふうに笑いのうちにもっていけたら、相手も「なら、聞こか」という姿勢になります。思いやりのコミュニケーションになるの。

大阪に育った私は、そういうことは自然に身につけてきました。そもそも大阪弁というのは商売人の言葉ですから、いかに相手を嫌がらせずにものを買ってもらうか(笑)。でも決して、笑わせようとして相手におもねっているわけではありません。

笑いというのは自分の心を開いていくことで、笑っているうちに相手の気持ちも開いてくる。つまりは心の開きあいで、笑っているほうが自分も向こうも気持ちいいということです。