前に進めないときは、ちょっと置いておけばいい

私の生家は写真館でしたが、食事はピンポン台のような大きなテーブルで、家族も店で働く人も一緒に摂るのが習いでした。

そんなとき、祖父は若い衆に向かってよく言ったものです。「お客さんが来やはったら、ちょっと笑わせて撮りなはれや。人間、『思わず笑ってしまった』という笑いの余韻が残っているときが一番ええ顔してるのやから」って。

私はテーブルの隅で宿題をしながら、いつも祖父たちの話を聞いて、一人でくすくす笑っていたの。よく、みんなでおしゃべりして、笑っていました。

人生には、何度か絶望するような試練のときがあります。もうにっちもさっちもいかないときもある。でも、笑っているうちにやり過ごせたりするの。笑わなしょうがない、と(笑)。

また、そんなときは、神様がその事態を起こして、「おい、よそ見したらあかんぞ。今、こっち見るんや」と怒ってはるんやと思うのも方法ですね。そうしたら「あっ、神様、忘れてました」と事と向きあう気にもなるし、どうしても前に進めないときは、ちょっと置いておけばいい。置いておいても、忘れませんよ(笑)。

ちょっと置いておくだけで、その瞬間はとても幸せになりますよね。なんでもしゃかりきになって立ち向かおうとすると、ポキンと折れてしまう。だましだましやっていくのも、可塑性を尊ぶ大人の智恵というものです。