撮影:霜越春樹
田辺聖子さんが6月6日に亡くなられました。半世紀以上、珠玉の小説・エッセイを書き続けてきた田辺さん。『婦人公論』にも、折にふれてご登場いただき、心に響く言葉の数々を残してくださいました。その中で、最後のインタビュー(2012年1月22日号)を再掲します。テーマは「幸せ」。3日目は「子育て」についてです。

小さなことでも、「好き」は幸せにつながる

「好きなものがある」というのも、人生の幸せですね。私は好きなものがたくさんあってよかったわ。お人形さんとかちまちまとしたものが好きだけれど、うちに来る編集者は女の人が多いので、みんなが「ああ、可愛い。私も欲しい」なんて喜んでくれて、幸せな顔になる。女というのは所有欲が強くて、買い物は楽しみですから(笑)。

洋服も好き。たとえ古くから着ているものでも、久しぶりに着てみると、気分が晴れて嬉しくなります。素敵な男の人を見て、ああ素敵と思うのもいいわね。本を読むのも、人とおつきあいするのも幸せ。そんなのでいいの。どんな小さなことでも、「好き」は幸せにつながるもの。

そうした「好き」の中でも、晩酌しながらおしゃべりをするのは、人生の醍醐味です。40代の私は、2本の新聞連載を持ちながら単発の小説を発表し、子育てに追われていましたが、この人生の怱忙期でも、夜、おっちゃん(夫・川野純夫氏)とおしゃべりしながら一杯やれるのが楽しみでした。

でも、いっぱい小説を書けて、みなさんに読んでいただいたうえに、子どもを育てられたのは幸せだったわ。もう大体はすみましたけど。(笑)