写真提供:新潮社

2022年10月20日、第17回「中央公論文芸賞」贈呈式が東京・有楽町の東京会館で行われました。昨年の同賞は2021年10月22日に贈呈式が行われましたが、受賞者である山本文緒さんは、2021年10月13日に膵臓がんのため58歳で逝去され、出席が叶いませんでした。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
2022年10月20日、山本さんが余命宣告を受けてから最期まで綴っていた134日の日記が『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』(新潮社)として出版されました。また、中央公論文芸賞受賞作の
『自転しながら公転する』は10月28日に文庫として出版される予定です。『婦人公論』2021年10月26日号に掲載された記事を配信します。

 

第16回「中央公論文芸賞」受賞作品は、浅田次郎、鹿島茂、林真理子、村山由佳(50音順)の四氏による厳正な選考の結果、山本文緒さんの『自転しながら公転する』(新潮社)に決定しました。受賞のことば・選評を掲載します。
第16回「中央公論文芸賞」受賞作
『自転しながら公転する』(新潮社)山本文緒


正賞── 賞状
副賞── 100万円、ミキモトオリジナルジュエリー

《受賞のことば》

「楽しんで書けた作品」山本文緒

20代半ばに文芸の世界の片隅に入れて頂いた時から、いつも私の心にあったことは、自分はこのあとどんなものを書いていくのだろう、何を目指したらいいのだろうということだった。

にも拘わらず、30代、40代と年代が進んでいっても、作家として熟成する己のイメージを描くことがまったく出来ず、ただ腕を伸ばして届く範囲にある絵の具で作品を描くような仕事の仕方をしてきてしまったと思う。

しかし、この作品が50代最後の長編になりそうだと思った時、何故だか「もうこのまま重厚さからかけ離れていてもいい」という勝手ながらも清々しい気分に襲われ、自分の作品の中では楽しんで書けたものになった。すると意外なことに自分の子供くらいの年齢の若い方が沢山手にとって下さった。

住む場所も自分で選択できず、仕事もそれほどプロフェッショナルに徹することが出来ない、きっと現実にいたら年齢のわりに幼稚なヒロインの女性の翼が、私が思っていたよりずっと空高く飛んで、宇宙のとば口あたりまで見せてくれたことに今とても驚いている。

選考委員の皆様、関係者の皆様、そして私の本を読んで下さった読者の皆様、どうもありがとうございました。