〈前編はこちら〉
日本から持参した 食卓塩
高橋 さっきのサイパン旅行ですが、僕はもともとダイビングに興味がなくて行ってますからね。海に沈んでいく時のあの独特な浮遊感は楽しかったんですけど、魚を見て楽しいっていう感覚がわからなくて。
八嶋 相当透明度の高いところにお連れしてるのに、ですよ。あと、マダラトビエイという小型のエイが100匹くらい一斉にホバリングしてて、現地の人もこんなのめったにないって興奮してるのに、その時の克実さん、無表情でしたからね。
高橋 だって、いつまでもいつまでも続いてるんだもん。ダイビングは2人でバディを組むものなんですが、2度目で、もうやめよう、と思う決定的な出来事があったんですよ。というのも、2人の身体の大きさが違うから、僕の酸素ボンベのほうが早くなくなる。そしたら、まだ自分のボンベは残ってるのに、楽しむ時間が少なくなった、克実さんは酸素を吸いすぎる、というわけですよ。
八嶋 いやあ、センシティブなところがおありだから、息を余計にお使いになるんですよ。サイパンは戦場だったところだから、あんまり行きたくないんだとおっしゃってましたし。
高橋 父親が戦争経験者ですし、サイパンやグアムと言えば大勢の方が亡くなられているとわかってるから、そもそも南の島に憧れはないですよ。
八嶋 生きものたちの住み処になっている沈船まで潜ることになったんですけど、その船は爆撃の実験で沈められた船。命を落とした人がいないことが後の調査でわかるんですが、僕たちが潜った当時はそれがまだわかっていなくて。そのうちちょっと気分が悪くなった、と言うので、ホテルに戻って各自の部屋でシャワーを浴びてたら、克実さん、思い出したらしいんです。「そうだ。俺は日本から塩を持ってきたのに、まくのを忘れてた」って。
清水 わざわざお清め用の塩を持って行ったの?
高橋 慌ててタオルだけ巻いて部屋の外で塩をまいてたら、ドアがガチャンと閉まって。
清水 コメディだ。(笑)
八嶋 そんなの、映画でしか観たことないでしょう? 裸の男がホテルの廊下でインロックされてるんですよ。それで僕の部屋のドアを叩いて、「八嶋、フロントに電話してくれ!」って。見たら、克実さんが持っていたのが、赤い食卓塩だったんですよ。普通、そういうお塩っていろいろあるじゃないですか。あなたはトマトなのか、と。(笑)