レオナルド・ダ・ヴィンチ『白テンを抱く貴婦人』(部分)
中野京子さんが『婦人公論』で好評連載中の「西洋絵画のお約束」。さまざまな西洋絵画で描かれる「シンボル」の読み解き方を学ぶことで、絵画鑑賞がぐんと楽しくなります。Webオリジナルでお送りする第4回で取り上げるシンボルは「テン」です。果たして何を意味しているのでしょうか——

白い毛を穢されるくらいならむしろ死を選ぶ

ネコ目イタチ科のオコジョは年2回毛が抜け変わり、特に冬は全身が真っ白になるが、その時期を「白テン」と呼び、且つアーミンと命名された毛皮は王侯貴族のマントなどに珍重された。

面白いことに、白テンには伝説がある。白い毛を穢されるくらいならむしろ死を選ぶというのだ。そこから白テンは純潔の象徴となり、白テンを抱く女性もまた貞潔の徳の主ということになった。ダ・ヴィンチの『白テンを抱く貴婦人』もそうした文脈で描かれ、鑑賞されてきた。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『白テンを抱く貴婦人』1489-1490年頃 チャルトリスキ美術館蔵

モデルはミラノ公国君主イル・モーロの愛妾チェチリア。イル・モーロがダ・ヴィンチのパトロンだったことから、この絵が発注された。当時チェチリアは16、7歳と言われる。彼女が20歳以上年上のイル・モーロのものになったのは、14歳の時。父を亡くして後ろ盾を失った美少女に断る選択肢などなかったろうし、「貞潔」でなければ生きてゆけなかったろう。

まもなくイル・モーロは政略結婚し、正妃は当然のことながらチェチリアを疎んで城から追い出した。画中の彼女のどこかしら薄幸そうな雰囲気は、そうしたところからくるのかもしれない。