剥きだした鋭い白い歯、光る目
一方、クロテンはどうか。
黒猫同様、負のイメージがまといついていることは想像に難くない。毛皮としては最高級品に属し、富裕層から愛されてはいたが。
パルミジャニーノの『アンテア』を見よう。アンテアというのは、画家と同時代のローマに実在した有名な高級娼婦の名だが、タイトルは後世につけられたものなので画中の彼女がアンテアかどうかはわからない。ただしそうタイトル付けしたくなる気持ちもわかるような、いかにも(男にとっての)面倒ごとを起こしそうな美女だ。ひたとこちらを見据え、前のめりで近づいてくる。剣呑、剣呑。
右肩から艶のあるクロテンの毛皮が流れるように胸もとを走る。凶暴な肉食獣の頭部まで剥製化してある。剥きだした鋭い白い歯、光る目。まるで生きているかのように、アンテアは分厚い狩猟用手袋をはめ、テンの鼻面につけた金鎖を指に巻き付けている。
美女がクロテンか、クロテンが美女か。こうした事態に立ち至ったなら、逃げるが勝ち。