ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ『リュート奏者』1595年頃 エルミタージュ美術館蔵
中野京子さんが『婦人公論』で好評連載中の「西洋絵画のお約束」。さまざまな西洋絵画で描かれる「シンボル」の読み解き方を学ぶことで、絵画鑑賞がぐんと楽しくなります。Webオリジナルでお送りする第1回で取り上げるシンボルは「リュート」です。果たして何を意味しているのでしょうか――

「楽器の女王」リュートのシンボル性

アラビアのウードや日本の琵琶の親戚(?)リュートは、十字軍の時代に中東からヨーロッパへもたらされた。ボディは洋梨を縦に割ったような形状で、背は丸くなめらかに湾曲、ネックは後ろに折れているのが特徴だ。大きさの割には軽く、弦の数は時代によって変わる。15世紀から17世紀にヨーロッパ中で大流行し、最盛期には「楽器の女王」と呼ばれたが、次第に音色や音量の違うギターに取って代わられた(近年また愛好者が増えている由)。

面白いもので、何にでも上下関係をつける西洋文化は楽器にもそれをあてはめ、天上で天使の楽団が演奏していれば上品な楽器、そうでないものは品下るらしい。リュートはトランペットやヴァイオリンなどとともに目出度(めでた)く天使に奏してもらえるが、バグパイプや手回しオルガンにその栄誉は与えられない。

リュートのシンボル性は多彩だ。

そのものずばりで「音楽」や「聴覚」の擬人像のアトリビュート(=持ち物)として、また抱きしめるように奏でるところから恋人たちの楽器として登場。時にはその形が――ボディが女性器、ネックが男性器に似ている――ところから「両性具有」の象徴となったり、静物画などに見られる「弦の切れたリュート」は「調和の乱れ」「不和」の暗示となる。

人気楽器だったので、ルネサンス及びバロック絵画にリュートはたびたび登場する。時代順に3点の例をあげておこう。