マティアス・グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』より「聖アントニウス」
中野京子さんが『婦人公論』で好評連載中の「西洋絵画のお約束」。さまざまな西洋絵画で描かれる「シンボル」の読み解き方を学ぶことで、絵画鑑賞がぐんと楽しくなります。Webオリジナルでお送りする第2回で取り上げるシンボルは「窓」です。果たして何を意味しているのでしょうか――

魔や病、邪悪や死霊の出入り口

窓のシンボル性は、橋や門のそれと共通項がある。それは「この世」と「あの世」、つまり「現実世界」と「異界」をつなぐ(あるいは接点となる)場だということ。こちらからあちらへ行く出口であると同時に、あちらのものがこちらへ入り込む入口にもなるという特別な場だ。

良い面としては、光や風、知識や愛や自由の出入り口であり、悪い面としては魔や病、邪悪や死霊の出入り口ともなる。

2点の作品を見てみよう

 

マティアス・グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』1512 -16年 ウンターリンデン美術館蔵

まずは16世紀初頭の宗教画『イーゼンハイムの祭壇画』。ドイツ人画家グリューネヴァルトが、イーゼンハイムの町にある聖アントニウス会修道院の礼拝堂に飾るため制作した三連祭壇画で、第一面の中央パネル「キリスト磔刑」の衝撃的な惨(むご)たらしさで知られる(拙著『「怖い絵」で人間を読む』NHK新書参照)。