広々とした外を眺める女性の後ろ姿
次はドイツ・ロマン派のフリードリヒによる『窓辺の女性』。薄暗い、閉塞感のある室内から、広々とした外を眺める女性の後ろ姿が印象的だ。
風のない夏の日差しは強く、彼女の耳を薄赤く透かしている。目の前の川では、帆船がすべるように通ってゆき、向こう岸のポプラの木々がさんざめいている。
この絵は見る人にさまざまの思いをかきたて、評論家もさまざまな論を展開しているが、素直に見れば、まだ家庭内に押し込められていた19世紀前半の女性の、広い世界への憧憬というのが妥当であろう。まだ窓を開けただけで、這い出るには至っていなくとも。
中野京子
作家、ドイツ文学者
北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、雑誌や新聞の連載、講演、テレビ出演など幅広く活動。『怖い絵』シリーズ(角川文庫)刊行10周年を記念して2017年に開催された「怖い絵」展では特別監修を務めた。他の著書に『名画の謎』シリーズ(文藝春秋)、『名画で読み解く 王家12の物語』シリーズ(光文社新書)、『美貌のひと』(PHP新書)、『「怖い絵」で人間を読む』(NHK出版新書)など多数。近著に『新 怖い絵』(KADOKAWA)、『画家とモデル』(新潮社)など。近著は『災厄の絵画史』著者ブログは「花つむひとの部屋」。