最低賃金を割り込んで
介護が必要な高齢者の暮らしを支えるホームヘルパー(正式名称・訪問介護員)。生活支援や身体介護を担う重要な職業にもかかわらず、人手が足りずに、現場に深刻なしわ寄せが来ている。
これを国の責任とし、国家賠償請求訴訟を起こした3人の現役ヘルパーがいる。東京都の藤原るかさん(67歳)、伊藤みどりさん(70歳)と、福島県の佐藤昌子さん(67歳)だ。
「ヘルパーの待遇がこのまま変わらず、人員不足が続けば、在宅介護そのものが成り立たなくなるかもしれません」と、訴訟を提起した藤原さんは懸念する。人が集まらない原因の筆頭は、賃金待遇だ。
「現在、ヘルパーの約7割が非正規雇用の登録型ヘルパーです。ほとんどのヘルパーが現場へ直行直帰の『出来高払い』という働き方ですが、多くの事業所では、その『移動』と『待機時間』と『キャンセル』にまともな賃金が出ないのです。出ても数十円の手当程度。拘束時間で考えると最低賃金を割り込んでしまいます」
1時間に満たない細切れの時間で働く訪問介護は、利用者の家から家へと移動する時間が必要だ。藤原さん自身、移動だけで年間30万円のタダ働きをしている計算になるという。
正規雇用のヘルパーでも平均月給(支給額)は約23万5000円。藤原さんによると登録型ヘルパーは8万円弱で、これでは生活もままならない。2022年にはコロナ禍と物価高に加え、人手不足で介護現場が逼迫。中小施設や訪問介護事業所を中心に、倒産や休廃業は2000年に介護保険制度が始まって以来最多の638件となった。
「現在、ヘルパーの有効求人倍率は約15倍(2020年)。なり手が全然見つかりません。国はヘルパー不足を、ヘルパーを雇用している事業者のせいだとして責任逃れしています。でも今の介護報酬では、多くの事業者には、それを払うだけの体力がない。
移動やキャンセルといった付加的な労働時間に賃金が支払われないという、労働基準法も守られない原因は、介護保険のシステム自体にあるからこそ、国を相手取って裁判を起こしたのです」と藤原さん。