先入観をうらめしく感じて

バリカンで形良く刈り揃えられた坊主頭の「障害者」。彼が主人公だと思っていた。だって彼が表紙にいるわけだし、「はじめに」も彼がスマホを耳に当てる描写からはじまるのだから。

『発達障害に生まれて-自閉症児と母の17年』(著:松永正訓/中央公論新社)

読者である私は、主人公である彼に「乗り込み」、シンクロして、彼の視点で世の中を見るように本書を読めばいいのだろうと、無意識に考えていた。勇太(仮名)がゴジラで、母親や周囲の人びとは自衛隊。勇ちゃんは母親をなぎ倒し、破壊の限りを尽くすが、やがて調伏される。その様子を見物する。そういう読書になるはずだった。

しかし。

気づいた。違った。読み方が違った。本書の主人公は、ほかにいる。

いきなりページに色がついた。モノクロの文字列が華やいで、私の脳内にたくさんの情景が流れ始めた。

ちきしょう、違った! 私は自らの先入観をうらめしく感じた。