学校基本調査(2021年度)によれば、自閉症・情緒障害特別支援学級には小学校で12万266人、中学校では4万4842人の児童生徒が通っているとされます。一方、自閉症を抱えた息子を育てる母が、徐々に世間一般の「理想の子育て」から自由になっていく軌跡を描いた『発達障害に生まれて―自閉症児と母の17年』がこの10月に文庫化しました。同書を手に取ったX(旧ツイッター)のフォロワー数が15万人を超える”病理医ヤンデル”こと市原真先生曰く「なかなかシンクロできないまま読み進めていくうち、想像もしていなかったまさかの事実にたどりついた」そうで――。
ある表現に違和を
包み隠さず申し上げるならば、私が本書の表紙を目にしてまず思い浮かべたイメージは、若干ネガティブなものであった。
障害者の山あり谷ありの人生を情感たっぷりに描いたノンフィクション、親や教師の葛藤、想像をちょっとだけ超える(けどちょっとしか超えない)挫折、編集者が執筆を依頼する程度にはわかりやすく感動できる克服。最終的には登場人物の多くが前向きになって、『障害者の未来はこれからだ!』的に大団円。まあ、おそらく、こういった感じだろうと思っていた。
個別具体的なエピソードには期待する。自分の知らない世界の話を読むことはいつだって刺激的だ。でも、きっと、それ以上でも以下でもないだろう。「闘病記」はそれで十分。まあいいか。これも体験だ。
私はその程度の「覚悟」で、本書を読み始めた。
しかし冒頭、60ページ。ある表現を目にして、私は違和を感じる。しおりをはさみ、いったん本を閉じ、あらためて表紙を見返す。