障害は「自閉症の中」にはない
勇ちゃんの持つ「自閉症」という特性は、障害の原因ではあるかもしれないが、障害そのものではない――
著者の松永正訓先生(小児外科医)は、巻末にそう書き記し、「真の意味での『障害』とは社会との接点における不利益である」(傍点は書評筆者による)と述べる。つまり、障害者というのは、「(うまくコミュニケーションできない社会という)障害(に囲まれている)者」と言い換えることができる。
では社会とはなにか?
園のスタッフ、主治医、祖父母をはじめとする、周りの人びと。そして、母。
勇ちゃんの母が、とある「先輩」からアドバイスをもらい、思わずつぶやく。「そういうふうに考えることもできるんだ……」。
何かがひとつ、取り除かれた瞬間だと思った。その何かこそが「障害」であろう。この本の主人公は障害者当人ではなく、「障害」のほうだ。
医師よ、なぜあなたはもう少し優しい言い方をしなかったのか。
教会にいた男よ。どうしてあなたは他人をどなってしまったのか。
祖父よ。あなたはなぜ旅先でまで怒り続けてしまったのか。
そして母よ、なぜあなたはそんなに、何度気づいても、何度克服しても、懲りずに子どもを周りと比較してしまったのか。
全員がバリアであった。勇ちゃんは、勇太君だけは、他人に興味を持たないまま、それらに真っ直ぐ突っ込んでいって衝突をする。障害は「自閉症の中」にはない。社会こそがハードルだ。