写真提供◎ホリプロ
2022年にデビュー40周年を迎え、2023年10月28日(土)より、東京・明治座にて『赤ひげ』の座長を務める船越英一郎さん。「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる大ベテランだが、意外にも本作で初舞台・初主演となる。役どころはNHKBS時代劇『赤ひげ』で主演を務めた新出去定(にいで・きょじょう)。これまで舞台を避けていた理由、俳優としての矜持、『赤ひげ』という作品にかける想いについて伺った。(構成◎碧月はる)

「恥をかきたくない」舞台を避けていた理由

「2時間ドラマの帝王」の異名を持つ船越さんは、民放5局の2時間ドラマすべてに主演作を持つ。そのほか、連続ドラマや映画、バラエティなど数多くの作品に出演してきたが、これまでなぜ「舞台」から遠ざかっていたのだろうか。

実は、若気の至りで小劇団を立ち上げた経験があるんです。当時の小劇団はメディアとは全くかけ離れたところにあり、劇団員はみな清貧に耐えなければやっていけない暮らしをしていました。そんな中で、僕だけ予算が潤沢にある場所でギャラをいただいてお芝居をするなんて、とてもじゃないけど「やってはいけない」と思ったんです。商業演劇に対するアンチテーゼを掲げて小劇場運動をしている人間が、商業ベースの舞台に出ることは許されない。そういう意地と自分への枷があり、舞台から長らく遠ざかっていました。

そうこうしているうちにドラマの撮影が増えてきて、ルーティンワークの中にずっぽりと身を置くようになって。前年の暮れには翌年のスケジュールがすべて埋まる。シリーズものをやらせていただくというのは、そういうことなんですよね。

年間10本以上のドラマ撮影、そこに加えてスペシャルドラマが入ってきたりもするので、合計すると年15〜16本のペースで2時間ドラマの撮影をするわけです。さらに映画や連続ドラマもやらせていただいていましたから、前年のうちに予定を割り振らないとスケジュールが成り立たなくなってしまうんですよ。なので、ロングスパンで取り組む必要がある舞台作品には、なかなか手を伸ばせないところがあって。

でも、2時間ドラマが斜陽になり、少しずつ時間に余裕ができて、「これからどうしよう」と不安を抱きはじめた矢先、NHKの『ごごナマ』という月曜から木曜まで週4日間の生放送番組の司会に“就職”したんです。あ、番組に出演が決まることを、僕は「就職」と表現してるんですけど。(笑)

2時間ドラマ、連続ドラマ、時代劇、毎日の帯の司会。いろんなところに就職しながらキャリアを積んでいくうちに、「今さら恥をかきたくない」という思いが強くなってきた。いわゆる保身ですよね。舞台を避けていた理由は色々あるのですが、実はこれが一番の本音です。でも、この思いが還暦を迎えたのを機に変わってきたんですよ。