深い感謝と、還暦後に“去来”してきた思い
近年、『警視庁考察一課』『テイオーの長い休日』など、数々のセルフパロディ作品に出演されている船越さん。還暦を迎え、自然と去来してきた思いの先に、よりしなやかな“俳優として”の生き方があった。
還暦を迎えた頃からセルフパロディの作品が増えてきて、ドラマ・CM共に数々の作品に出演させていただきました。セルフパロディの作品に出ることは、正直リスキーな面もあります。俳優として色がついてしまうのではないか、このイメージの中でしか仕事ができなくなってしまうんじゃないか。そんな葛藤もたくさんありました。でも、楽しんでくれる方がいるなら、余計なことを考えずにエンターテイナーとしてみなさんに楽しんでもらえばいい。「恥すら楽しんでもらえればいい」と、そう思えるようになったんです。
2時間ドラマに出演されている方は数多おられます。その中で、なぜか私をアイコンにしていただけた。これには本当に心から感謝しています。今日を支えてくださったみなさんのおかげで、ここまでえっちらおっちらやってこられたわけですから。
昨年、デビュー40周年を迎えました。大きな節目に、感謝の気持ちを直接お伝えできるものは何かと考えたら、やはり「生の舞台」だな、と。還暦を迎え、キャリアを40年積み重ねてきた人間が、あがき、もがき、ジタバタとのたうち回っている。その姿をお見せすることが、僕からみなさんへ贈る感謝の気持ちです。「恥をかきたくない」から、「恥をかいてもいい」に変化した。これが、60の声が聞こえる頃から自然と去来した思いでした。
コロナ禍、家にいる時間が増えたタイミングで犬を飼いはじめたのですが、彼との出会いも大きかったですね。名前はレオです。コロナ禍前はドラマ撮影で地方に行くことが多くて、「いつも崖にいる」とみなさんが笑っていたくらいですから、とても犬を育てるなんてできなかった。でも、今なら飼えるじゃんって。
そうしてレオとの生活がはじまったのですが、教わることが実に多い。はじめのうちは「寝室には入れない」などルールをあれこれ決めていたんですけど、あまりにもかわいくてルールがどんどん緩んでいって。でも、ちゃんと良い子に育つ。そんなレオの様子を見ていたら、「ルールを外したほうがいいんじゃないか」と思うようになりました。
僕はもともとルール作りが大好きで、自分自身にもたくさんのルールを課していたんです。「世の中ギブアンドテイクで、犠牲を払うから何かが手に入るんだ。自己犠牲を厭わない生き方をしろ」「弱音を吐いたらそこに魔が入ってくる。言霊になるから、絶対に弱音を吐くな」――こんな感じでルールを色々課してきたわけですが、知らないうちに自分をカゴの中に閉じ込めてしまってたんですよね。でも、それを外してみたらすごく楽になって。すると、不思議なことに仕事の幅も広がっていきました。セルフパロディ作品も、そのうちの一つです。