「選択のパラドックス」

ですが、必ずしもそれ(性能の悪さ)が理由ではないことは、多くの皆さんがお分かりの通りです。

私は、婚活アプリを利用する若者たちから「いい人がいない」「これと思う相手に出会えない」と聞くたびに、マーケティング調査でよく耳にするセリフを思い出します。

それが、「着ていく服がない」。

私たちマーケッターにとっては、消費者のセリフの一つひとつに、どんな思いやこだわりが詰まっているのかを読み解くことも重要な仕事です。

こうした声の主に「お宅訪問調査」をかけると、実は平均よりずっと多くの洋服が、クローゼットに眠っていたりします。

彼女たち(彼ら)は、決して「服がない(少ない)」わけではありません。むしろ、ストックが多すぎて選ぶのがストレスだからこそ、往々にして「どれも決定打に欠ける」と服のせいにして、「手持ちの服からは選べない」と決定を避けたり、「市場(自宅の外)には、もっといい服があるはず」だと、あえて外に目を向けたりしているのです。

候補となる服は手元にたくさんあるのに、多すぎて選べないから「着ていく服がない」となり、つい選ぶのをやめ、外に目を向けている。そんな彼らは、思考と行動が大きく矛盾しているのがお分かりいただけるでしょう。

私は人間に起こりがちな、こうした様々な「認知エラー」こそが、婚活アプリやリアル(対面)の場での出会いをむしろ難しくしている、すなわちカップルの数自体が増えない2つ目の理由だと考えています。